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  • 執筆者の写真Yanagisawa Shizuma

宮古島から新種のゴキブリを発見し、記載しました。

【プレスリリース】

 2021年6月17日、日本動物分類学会誌のSpeceis Diversityにて、原著論文『A New Species of the Genus Eucorydia (Blattodea: Corydiidae) from the Miyako-jima Island in Southwest Japan』を発表しました。詳しい内容は以下のプレスリリースをご覧いただけたら幸いです。

 線内プレスリリース

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美しいゴキブリを新種として発表

種の保存法における緊急指定種に指定され、捕獲・殺傷・販売すると罪に問われることに



発表のポイント

・宮古島からみつかったゴキブリ類(昆虫亜綱)をベニエリルリゴキブリ(新種)として発表

・新種ゴキブリは,与那国島にのみ生息するウスオビルリゴキブリとともに令和3年7月1日から令和6年6月30日までの3年間指定される.種の保存法における緊急指定種に指定され,ゴキブリで初めて捕獲・殺傷・販売などが法律下で禁止される

・森林で分解者として有益な森林性ゴキブリ類の日本での多様性解明を一歩進めた


 ルリゴキブリ属のゴキブリは日本では近年まで石垣島、西表島に生息するルリゴキブリEucorydia yasumatsuiの1種のみが知られていた。しかし2020年11月、竜洋昆虫自然観察公園の柳澤静磨職員,鹿児島大学の坂巻祥孝准教授,法政大学の島野智之教授らからなる研究チームの研究で宇治群島家島、吐噶喇列島悪石島、奄美群島奄美大島、徳之島に分布するアカボシルリゴキブリEucorydia tokaraensis 、与那国島にのみ生息するウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisの2種を発見、新種として記載した。これによって日本産ルリゴキブリ属は3種となったが、さらに今回、同チームは沖縄県宮古島から新たにルリゴキブリ属のゴキブリを発見、新種として記載した。

 ゴキブリは害虫として知られ「黒い」「汚い」イメージであるが、日本(南西諸島)を北限として、東南アジア、南アジアまで分布するルリゴキブリ属のゴキブリは、いずれも非常に美しい青色の金属光沢や、鮮やかな橙色の紋などを持ついわゆる美麗種である。人家に出入りすることはなく、通常,森林内の朽ち木内などで、腐植質などを餌に生活をしている。

現在、日本産ゴキブリは61種(2021年6月に他のゴキブリ新種が追加されたため)が知られており、今回1種を新種として記載したため、合計62種となった。このうち、人家の中に出現するのは1割程度であり、それ以外のゴキブリは、森の朽ち木や洞窟などに生息して、朽ち木などの有機物を食べて生活しており、人間とはほとんど関わりのない生活をしている。

今回記載されたベニエリルリゴキブリEucorydia miyakoensis(ユーコリディア・ミヤコエンシス)は宮古列島宮古島にのみ生息し、オスの全長が12.5~13.0 mm、上翅の基部に黄赤色の微毛を持ち、上翅中央部には明瞭な黄赤色の帯状紋を持つことが特徴である。

 今回の研究では日本産のルリゴキブリ属の系統関係を解明するためにDNA解析を6遺伝子座に関して行った。その結果、日本産のルリゴキブリ3種とは,明瞭に別種となり,我々の形態による分類の結果を支持した。


 本ゴキブリ種は宮古島にて生息可能な環境が非常に限られていることから、絶滅の危機に瀕している可能性がある。ルリゴキブリ類はオークションで野生個体の取引もあり、今回新種として発表されることにより注目を集め種の存続に重大な支障が生じる恐れがある。そのため、昨年11月に与那国島から記載されたウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisとともに2021年7月1日、「種の保存法」における緊急指定種として指定され,捕獲・殺傷・販売などが法律下で制限される。日本におけるゴキブリ類の「種の保存法」における国内希少野生動植物種または緊急指定種への指定は初めてである。

 忌み嫌われているゴキブリとはいえ、彼らは生態系の1ピースであり、分解者として重要な役割を持っている。自然を保護していくためには,人気者だけを保護すればいいのではなく、生態系を広く捉え、保護が必要と考えられる種にはそれがたとえ人間から嫌われている生き物であろうと、適切な対応を行っていくことが重要である。今回の発表は、多くの方にゴキブリという生き物や、生き物を保護することへの関心をもっていただく機会になると考えている。


■発表雑誌: Species Diversity

■論文タイトル: A New Species of the Genus Eucorydia (Blattodea: Corydiidae) from the Miyako-jima Island in Southwest Japan

https://doi.org/10.12782/specdiv.26.145

■著者: Shizuma Yanagisawa, Shimpei F. Hiruta, Yositaka Sakamaki, and Satoshi Shimano(竜洋昆虫自然観察公園柳澤静磨職員、国立科学博物館蛭田眞平博士、鹿児島大学坂巻祥孝准教授、法政大学島野智之教授)

■ 2021年6月17日 オンライン公開


■連絡先:yokoyama070821@gmail.com


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【記載までの経緯】

 今回の記載は1つ前の論文に続く、日本産ルリゴキブリ属の分類学的研究です。

 前回記載したアカボシルリゴキブリEucorydia tokaraensisとウスオビルリゴキブリEucorydia donanensisの標本調査をしていた際、宮古島より得られた1個体の標本が博物館に収蔵されていることを知りました。鹿児島大学の坂巻先生よりいただいた写真で知ったのですが、写真を見た感じでは日本産のどの種類とも分けられそうな雰囲気がありました。しかし、大きさ以外は台湾のオオルリゴキブリEucorydia dasytoidesと非常に似ていましたが、標本数も少ないことから前回の論文では含めないこととしました。

 ウスオビルリゴキブリとアカボシルリゴキブリの論文が大方完成したころ、どうしても宮古島のルリゴキブリが気になり、宮古島に足を運びました。

 宮古島はかなり開発が進んでおり、ルリゴキブリの生息できるような環境は非常に限られています。そもそも本当にいるのかという疑問や、以前(採集標本はだいたい10年前ほど)はいたとしても現在はどうなのかという心配がありましたが、いないという証明はできません。とりあえず頑張れるだけ頑張ることにしました。1回目の調査では全くの不発で、影も形も見ることはできませんでした。かなりの時間をかけて探し回ったのですが、いい環境自体がなく、本当にいるのか?という疑問がさらに積み重なりました。

 それから少ししてやはり気になり、2回目の調査を行いました。

2回目の調査でもやはりなかなか見つかりません。半分諦め状態でしたが、一部生息していそうな環境を見つけ、そこでようやく数匹の幼虫を見つけることができました。見つけることができたときはやっぱりいたのか、と感動しました。

採集した幼虫は大切に持ち帰り、飼育を行いました。ほかのルリゴキブリと成虫の姿を比較するために、まずは羽化させる必要があります。それからは毎日「まだ羽化してないかな~」と飼育ケースを覗くワクワクの日々が続きました。

ある日、いつも通りにケースを開けて様子を見ると、キラキラと輝く成虫の姿が。写真で見ていた標本と同じような模様!ついに待ちわびた瞬間が来ました。


 成虫の翅は青い金属光沢をもち、中央あたりに途切れることのない黄赤色の明瞭な帯状紋があります。これはほかの日本産ルリゴキブリとは異なる模様です。また、台湾にいるオオルリゴキブリとも大きさに差がありました。これはもしや日本産第4のルリゴキブリでは!と興奮しました。しかし、こればかりは正確に比較しないと何とも言えません。見比べるためには解剖を行ったりDNAを確認してもらったりという作業が必要になります。良い方は悪いですが、そのためには個体を殺す必要があります。

 せっかく羽化したので、標本にしてしまう前にゆっくり観察をすることにしました。手に載せて歩く姿はかわいらしく、キラキラと輝く姿は美しいではありませんか。しばし見入っていると、なにやら翅の根元が角度によってオレンジ色がかって見えることに気づきました。なんだろうと思ってよく見てみると、黄赤色の毛が生えているように見えます。慌てて前回出した論文や世界のルリゴキブリについて書かれた論文を確認するも、日本産のルリゴキブリの仲間や台湾のオオルリゴキブリにはない特徴であることがわかりました。宮古島のルリゴキブリ標本を手元に置かれていた坂巻先生に連絡し、翅の根元に黄赤色の毛はあるかと尋ねると、わざわざ確認してくださり、「確かにある!」とお返事をもらいました。変異ではなく宮古島のルリゴキブリが持つ特徴であれば、他の種と区別する大きなポイントとなります。興奮のあまり、その日はなかなか寝付けませんでした。後日ほかの個体も羽化してきましたが、どの個体にも翅の付け根に黄赤色の毛があり(J, K)、宮古島に生息するルリゴキブリの特徴であることがわかりました。

  引用:Yanagisawa, S., Hiruta, S. F. Sakamaki, Y., Shimano,S. (2021) A new species of the genus Eucorydia (Blattodea: Corydiidae) from the Miyako-jima Island in Southwest Japan. Species Diversity, 26(2): 145-151.


 その後、交尾器やDNAについても比較を行い、やはり他のルリゴキブリとは区別できることから論文を執筆し、今回の発表に至りました。学名は『宮古島』を表すEucorydia miyakoensisとし、和名は本種の特徴である翅の根元にある黄赤色の毛を襟に例えてベニエリルリゴキブリとしました。


ベニエリルリゴキブリは非常に派手で美しいゴキブリです。このような素晴らしい種を新種として発表出来たことはこの上ないうれしさです。


【緊急指定種に指定】

プレスリリースにもあるように、本種と前回記載したウスオビルリゴキブリは2021年7月1日、種の保存法における「緊急指定種」に指定されます。指定にあたり、私も記載者の一人としてヒアリングを受けました。詳しい概要については環境省のHPをご覧ください。

環境省HP: https://www.env.go.jp/press/109741.html


ゴキブリの保全となると、恐らく、「そんなことしなくていいよ。絶滅させてしまえ」というような意見をおっしゃる方もいるかと思います。しかし、ゴキブリも生態系の一員であり、野外では分解者として重要な役割を担っています。私たち人間はその支えがあってこそ生きていられます。あまり好かれてはいませんが、ゴキブリもなくてはならない存在なのです。

また、生物の保護は人気者のためだけに行うものではなく、様々な生物に焦点をあてて必要な状況であれば適切な対応をしていかなければいけません。それはたとえゴキブリでも同じことであり、回りまわって生態系全体のため、人間のためなのです。

採集・発見・繁殖・記載・指定・展示、そして保全(の可能性)ということでゴキブリたちとは今後も長い付き合いになりそうですが、私にできることがあれば微力ではありますが最大限注力していきたいと思います。


【終わりに】

最後になりましたが、改めまして採集に協力してくれた友人たち、ご指導いただいた共著者の先生方、また、好きなことばかりしている私を生活面で支えてくれた上に、調査も手伝ってくれた妻に厚く感謝申し上げます。



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